日本思想叢書第九編 『日本書紀精粋』 文部省/刊 昭和八年 より~ †
現代語意訳/プル(言葉の表記を現代語にしたのみで、物語はほぼそのまま)
大己貴命と少彦名命は、お互いに力を合わせてこの葦原中国(あしわらなかつくに)という国を造ったんだよ。
人や獣の為に、その病気を治す方法も作ったのさ。
鳥や獣、昆虫の災害の為には、それを避ける呪文だって作ったんだ。
みんなはその有り難いおかげのもとで生きてるんだよ。
むかし、大己貴命が少彦名命に聞いたんだ。
「ぼくらが作った国は、良くなったかな」
少彦名命は答えたよ。
「ん〜、良いところは良いけど、そうじゃない所はそうじゃないな」
この話にはね、たぶん深い意味があるんだ。
その後で、少彦名命は熊野の御崎に行って、結局外国に行っちゃった。
というか、実は淡島に行ってさ、何を思ったか栗の茎を伝い上ってね。
びゅ〜んって弾かれて。
常世の国に行っちゃったっていう話もあるよ。
その後は、国の中のまだちゃんと出来ていない所を、大己貴命ひとりでまわって造っていったんだよね。
で、出雲の国に到着した時に言う訳。
「この葦原中国はもともとは荒れ果てていたんだ。石や草木まで凶暴だったんだから。でも、ぼくが征服しちゃったから、今は従わないものなんてないんだよね」
そしてポツンと言うの。
「今はこの国を治めるのはぼく独りになっちゃった。誰かぼくと一緒にこの国を治める神さまはいないのかな」
すると、怪しい光が海を照らしたの。
ぽっこり浮かび上がって来たものが言うんだよね。
「ところでさ、ぼくがいなかったら、どうして君がこの国を治められたと思う? ぼくがいたからこそ君は手柄を立てることが出来たんじゃない?」
大己貴命はびっくりして聞いちゃった。
「君は誰?」
「ぼくが君の幸魂(さちみたま)奇魂(くしみたま)じゃないか」
「あっ、そうか。君がぼくの幸魂奇魂だったんだよね。ところで、君は今何処に住みたいと思ってるの?」
「んとね。大和の国の三諸山がいいかな」
という訳で、そこにお宮を造って鎮座したのが大三輪の神さまってこと。
この神さまの子どもたちが、甘茂君や大三輪君のみんな、それに姫踏鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)なんだ。
ところで、姫踏鞴五十鈴姫命にはこんな話があるよ。
事代主神(ことしろぬしのかみ)が八尋の熊鰐に変身して、三嶋溝杭(みしまみぞくい)姫(玉櫛姫ってもいう)のとこに通って出来ちゃったのが姫踏鞴五十鈴姫命。
で、この神さまが神日本盤余彦火火出見天皇(神武天皇)の皇后さま。
大己貴命が国土平定をはじめたばかりの頃、出雲国の五十狭狭(いささ)の水ぎわにいて、何か食べたいな、なんて思ってたのね。
そしたら突然海の方で人の声がする訳。
大己貴命はびっくりしてさ、その声の主を探したんだけど、誰もいない。
しばらくすると、ささぎっていう鳥の羽の服を着た小さい男が、芋の皮で出来た舟に乗ってやって来たんだ。
大己貴命がそいつを手ですくい上げて、もてあそんでいたら、このちっちゃな男怒っちゃって、大己貴命の顔に食いついたの。
なんだこいつは?と思って、天神さまに使いの者を出したんだけど、ちょうど高皇産霊尊がこれを聞いててね。
「ワシが産んだ子はすべてで1500人もおるのぢゃ。その中にひとり悪太郎がおってな。これがまた少しも言うことを聞かず、指の間からすべり落ちてしまったのぢゃ。まさにそやつがその悪太郎であろう。どうか可愛がってやっておくれ」
これがなんと少彦名命なの。