***色魔的商売人 [#e37a4815] 上流の婦人を相手とする色魔的商売人は様々の仮面を持っている。~ ~ 音楽や茶の湯、生花の師匠に怪しいのが少くない。~ 近頃では、美容術師やマッサージなぞいうのが盛に上流の家庭に出入りして、婦人を直接間接に誘惑するそうである。~ ~ 又、何々光線、又は気合術、呼吸法なぞいう新治療の出張応需式なのも逐次増加の傾向である。~ 甚だしきに至っては、仏教や基督(キリスト)教の牧師、又は家庭教師と称するもので、怪しい商売をするものが殖えたと聴いた。~~ こんな商売は、遊芸や何かの師匠と違って、素人でも割合い手に入り易いと同時に、上流の家庭に出入りするのにも都合がいい。~ 逆に云えば、上流の家庭から電話や何かで自由に呼び出しが利く便利がある。~ 又、その家庭の秘密を掴む上にも好都合なので、扨(さて)こそかように流行するのだと云う。~ ~ このような色魔式商売の中で、最も斬新奇抜と思われるのは保険会社の勧誘員である。~ ~ ~ ***文明病としての神経痛 [#eeecbe95] 女医、美容術師、マッサージ師、派出婦、助産婦、保姆、看護婦なぞは、大抵、何々会というものに付属しているが、この何々会に頗(すこぶ)る怪しいのが多い。~ ~ 九州地方の看護婦会の会長さんはよく云う。~ 「看護婦は奥さんの御病気の時に行くのを嫌がります。つい旦那様のお世話をさせられたりして、誤解を受けたりする事がありますので……どうも困ります」~ ~ 東京はこれと正反対で、そんなところを撰んでつけ狙う。~ 一方、お客の需要もそんなのが珍らしくない。~ 独身男から、奥さんが病気だと、電話がかかって来るのもないと限らぬ。~ 勿論、会長も看護婦もその方の収入の方がずっと大きい。~ ~ その他、子供の世話と名付けて保姆を、その他の仕事に家政婦や派出婦をといった風に、前の看護婦と同様の意味で営業しているのが、東京市中にかなりあるらしい。~ 但、見わけはなかなか付かない。~ ~ 今度、東京でいろんな新智識を得たが、その中でも面白いのは、マッサージ師の上得意で、神経痛という病気である。~ これは文明病の一種であるが、ちょっと医師にも素人にも見わけが付かないところに、一層文明病としての価値があるのだそうな。~~ というのは、奥様が神経痛にかかって別荘に御祈祷師を呼び寄せると、旦那も又神経痛で本宅に女マッサージを出入りさせるというわけである。~ 最近の神経痛は痛くとも何ともなくて、かかり易くてなおり易く、おまけに見分けが付かないという。~ 便利な病気もあればあるものである。~ ~ 但、これ等は、東京人の堕落時代に乗じて今更流行(はや)り出した病気とは云えないかも知れぬが――。~