*『新編療術極秘録』川崎生泉/著 昭和三十二年 東京指壓療法學界/発行より [#s7a07d35]
--''療術文献篇''~
---世界の古代手技療法~

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 ★我国の医道は、素甕鳴尊六世の孫である、大穴牟遅命(又の名大国主神)及ぴ高皇産璽神の御子、
 少名毘古那の二神に初まる。
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この書中で少名毘古那(少彦名命)は「高皇産璽神の御子」と高天原系の神ということになっていますが、海を渡って来た稀人神であるという説が有力。~
--[[大己貴命国土経営ものがり]]
---日本思想叢書第九編『日本書紀精粋』文部省/刊 昭和八年より 現代語意訳/プル

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 兩神は力を協せて国土を経営し、又蒼生や畜産のために療病の法を定め、鳥獣魚虫の災異を除くた
 めには、禁厭の法を定められ給ふた。
 
 外傷に蒲黄を貼り、火傷にきさ貝の黒焼を用ぴた等の外は、その方法が明でないが、既に沐浴灌水
 等、今日に於ける水治療法の案出さえあり、温泉に浴して病を療すことも亦この頃から始つたのを
 観る時は、少くとも指圧按撫拭擦の之に伴つたものであらうことは推察するに難くない。
 
 大山祇の神の御子に足名稚手名稚の神があつた。
 その義は足なで手なでの意であると云ふ。
 普通に解釈せられるやうに。
 慈愛のため、手をなで足をなでの意味のものでなく、前記の所謂簡単なる指圧法を行ひしものの如く
 思はれる。
 
 ★彼のアイヌ間には「トスグル」と稱する者(信徒の如く卜占祈祷して医療する者)の外、「イケ、
 イヌ、グル」と稱して一種の指圧を業とする者があつた。
 それが如何なる程度のものであるか明かでないが、所謂指圧按擦療法が、既に一種の自為的療法と
 して原始時代より行はれた事は想像するに難くない。
 テケ、イヌ、グルとは、手を以て疼痛ある場所を圧し、摩し、且つ撫するの義であると、云ふ。
 
 ★平田篤胤は、その著「志都の石室」に於て、藥の語原に関し、
 「大古は病あるや、撫で、押へ、摩り、且つ揉みたるが故に其の押へ摩り且つ撫づることをクスル
 と名付けたるものにて、其は深根輌任の撰びし『本草和名』に石斛のことを須久奈比古乃久須禰、
 又の名以波久須利と註し、『和名抄』の記事亦同様なるを以て観れぱ、クスリ、クスルは共通の語
 にして彼の少名彦命の諸藥中、最もこの石斛を用ひ、諸病を摩り撫でて療すること多かりしより、
 さてこそ病を治するものをクスリと云ふに至れるものなり」
 と説いてゐる。
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CENTER:……略……
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 手当とか手当法とか或は手遲おくれなどと言ふ言葉がある以上、日本に於ては何等か数種の手技療
 法が、存在してゐたであらう事は想像される。
 されば日本太古に於ける無藥療法就中手技療法に就て述べて見やう。
 
 神代に於ける治療の方法は禁厭(マジナイ)と食餌法の二つであつた。
 此の中食餌法は「神遣方」と云ふ古書に残されてゐる。
 
 禁厭は、病氣を厭み禁するの方法である。
 之は形式より見れば一種の手技療法である。
 其方法は口傳に依つて傅へられて来たものである為め、之を知つて居る神官は少いさうである。
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 其方法は、先づ天照皇大神に対し奉りて拍手を打ち、祝詞を奏する。
 然る後、十種の神宝を両掌の間に入れ、左手を上に右手を下にして固く握り合せる、而して其握り
 合せし両手を上下に動かしながら 次の文句を奏する。
 
 『モシ痛ムトコロアレバ、十クサノカムダカラヲ、フルベユラユラト、フルベカクナサバ、マカラ
 ントスルモノモ、イキカヘリ、ナント、アマツミオヤノ教へ給フ、フルペノカムワザ、ツカヘマツ
 ル、十クサノカムダカラ』
 (以上の文句は「旧事記」に記載されてある。旧事記は推古天皇二十八年聖徳太子蘇我馬子勅を奉じ
 て撰とするも、太子は中途にして薨去したるを以て、其編纂は中止し草稿を其儘傳へしものならん
 と傳へられてゐる)
 
 次に握りし両手を左右に動かしながら、次の文句を奏する、
 『オキツカガミ、ヘツカガミヤカヅノツルギ、イク玉、マカルカヘシノ玉、タルタマ、オコヂノヒ
 レ、ハチノヒレ、タサグサノヒレ』
 
 『ヒフミヨイムナナヤココノタリヤ』それが終ると
 
 『フルベヤフルベ、ユラユラト、フルベ』
 と奏しながら握りし両手を右から左へ回転させる。
 
 次に左手に十種の神宝を移して、之れを固くにぎり、右手指を伸して、顔前に置き、
 『シラベテ、ナラベテ、ユマワト、サラニ、タネヲ、チラサズ、イハヒ、ヲサメテ、ココロシヅメ
 テ』と奏する。
 
 此次には握りし左手を右から左に回転させつつ、上中下三段に位置を替へ、
 『フルベ、フルベ、ユラユラトフルベ』と奏する。
 
 以上が終了すると、左手の指を伸して掌を患部にあてる。
 
 而して数分間其の左手を患者のコメカミに当て
 『フルベノカミワザ、ツカヘマツリ、コト、ヲヘタマヘバノベ神達ノ、キコシメシテ守リタマヒ、
 サキハヘタマフコトヲ、イハヒシツメ、マツラクト申ス』
 と奏して強く息を吹き、治療を終るのである。
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 以上の方法は術者が深甚なる信仰心を抱き、精神を統一して嚴粛に行はねばならない、然らずして
 單に形式のみを行つても效果はないと云ふ。
 
 思ふに治病に手の靈妙不可思議なる作用あることは、早やくも久遠の昔、神代に於て既に認識され、
 それが宗教と結びつき、禁厭の形式を以てかうした手技療法が実行されたものであらう。
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