CENTER:[[按摩さんのいる風景]]トップ
 
 RIGHT:→[[青空文庫内元テキスト>http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/939.html]]
 
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 *色魔的商売人 [#e62c9748]
 上流の婦人を相手とする色魔的商売人は様々の仮面を持っている。~
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 音楽や茶の湯、生花の師匠に怪しいのが少くない。~
 近頃では、美容術師やマッサージなぞいうのが盛に上流の家庭に出入りして、婦人を直接間接に誘惑するそうである。~
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 又、何々光線、又は気合術、呼吸法なぞいう新治療の出張応需式なのも逐次増加の傾向である。~
 甚だしきに至っては、仏教や基督(キリスト)教の牧師、又は家庭教師と称するもので、怪しい商売をするものが殖えたと聴いた。~~
 こんな商売は、遊芸や何かの師匠と違って、素人でも割合い手に入り易いと同時に、上流の家庭に出入りするのにも都合がいい。~
 逆に云えば、上流の家庭から電話や何かで自由に呼び出しが利く便利がある。~
 又、その家庭の秘密を掴む上にも好都合なので、扨(さて)こそかように流行するのだと云う。~
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 このような色魔式商売の中で、最も斬新奇抜と思われるのは保険会社の勧誘員である。~
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 *文明病としての神経痛 [#l0a90a61]
 女医、美容術師、マッサージ師、派出婦、助産婦、保姆、看護婦なぞは、大抵、何々会というものに付属しているが、この何々会に頗(すこぶ)る怪しいのが多い。~
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 九州地方の看護婦会の会長さんはよく云う。~
 「看護婦は奥さんの御病気の時に行くのを嫌がります。つい旦那様のお世話をさせられたりして、誤解を受けたりする事がありますので……どうも困ります」~
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 東京はこれと正反対で、そんなところを撰んでつけ狙う。~
 一方、お客の需要もそんなのが珍らしくない。~
 独身男から、奥さんが病気だと、電話がかかって来るのもないと限らぬ。~
 勿論、会長も看護婦もその方の収入の方がずっと大きい。~
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 その他、子供の世話と名付けて保姆を、その他の仕事に家政婦や派出婦をといった風に、前の看護婦と同様の意味で営業しているのが、東京市中にかなりあるらしい。~
 但、見わけはなかなか付かない。~
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 今度、東京でいろんな新智識を得たが、その中でも面白いのは、マッサージ師の上得意で、神経痛という病気である。~
 これは文明病の一種であるが、ちょっと医師にも素人にも見わけが付かないところに、一層文明病としての価値があるのだそうな。~~
 というのは、奥様が神経痛にかかって別荘に御祈祷師を呼び寄せると、旦那も又神経痛で本宅に女マッサージを出入りさせるというわけである。~
 最近の神経痛は痛くとも何ともなくて、かかり易くてなおり易く、おまけに見分けが付かないという。~
 便利な病気もあればあるものである。~
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 但、これ等は、東京人の堕落時代に乗じて今更流行(はや)り出した病気とは云えないかも知れぬが――。~
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 底本:「夢野久作全集2」ちくま文庫、筑摩書房~
    1992(平成4)年6月22日第1刷発行~
 ※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)~
 入力:柴田卓治~
 校正:かとうかおり~
 ファイル作成:かとうかおり~
 2000年4月28日公開~
 青空文庫作成ファイル:~
 一部抜粋
 
 

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