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''第十二章「日本アルプス行」より一部抜粋''~
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私はとても疲れていたので、この分では明日の登山中に脚が動かなくなるかもしれないと心~
配になり、ガイドの親分にマッサージ師を呼んでくれるよう頼みました。~
すると彼は「その必要はありません。私がやってあげましょう」と答えました。~
私は嬉しくなって早速浴衣姿で横になり、マッサージしてもらったのです。~
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極東ではどこへ行ってもマッサージ師と言えば通じますし、実際に行なわれています。~
私が初めて見たのはサイゴンで、私たちが乗った船に現地の安南人が石炭を積み込む作業を見ていた時のことでした。~
猛烈な暑さの中、彼らは石炭を柳籠に入れて船の燃料庫に運んでいました。~
行ったり来たり、彼らは熱帯の暑さが厳しい真昼も休まずに働いていました。~
その時、苦力(クーリー)の一人が作業を中断したかと思うと腰巻一つで石炭を積んだ船の甲板に横になりました。~
そして仲間の一人がマッサージを始めたのです。~
東洋の方が西洋よりも優れていることがたくさんありますが、マッサージの習慣もその一つです。~
日本では入浴の一部になっており、誰でもやってもらっています。~
一軒の家にはマッサージの上手な人が必ず一人はいます。~
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だから今回の登山で熟練のマッサージ師に出会ったといっても別に驚くことではなかったのです。~
ところで、彼は普段は同僚をマッサージしているので私のようなきゃしゃな体には強すぎます。~
あまりの痛さに私は思わず悲鳴をあげてしまいました。~
彼の方も力を抜かなくてはいけないことがわかり、それからは私も筋肉のこりがとれていくのを感じながら気持よく横になることができました。~
彼は押したり、撫でたり、叩いたりと完壁なマッサージをしてくれました。~
叩くというのは手首の力を抜いて手の横腹で打つことで、まるで小馬がパカパカと体の上を飛び跳ねているようでした。~
時々顔をのぞくと、まるで仏様のようでした。~
マッサージのひ地よいリズムに心もなごむのでしょう。~
こうして一時間半、筋肉のこりがすっかりなくなるまでマッサージは続きました。~
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朝の出発が早かったので、前日は五時にはもう通りの向こう側にある温泉の湯舟につかっていました。~
しかし、出発の日の朝もう一度お湯に入って全身の疲れがとれてから、ようやく私は出発しても大丈夫だと確信したのでした。~
それまでは昨晩の徹底的なマッサージによって新たな筋肉の瘤ができてしまったような気がしていて、とても急な山道が登れるとは思えなかったのでした。~
それが、お湯に入って二、三分もしないうちに奇跡がおこり、お湯から出る頃には丘を踊って登れるぐらい元気になっていました。~~
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『東京に暮らす』キャサリン・サンソム/著 大久保美春/訳~
岩波文庫 青466-1~
ISBN4-00-334661-0~


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