CENTER:[[按摩さんのいる風景]]トップ RIGHT:→[[青空文庫内元テキスト>http://www.aozora.gr.jp/cards/000989/files/350.html]] ''一部抜粋'' ~ ~ ''新''「困っても仕方がない、何か、さしこみには近辺の鍼医&size(9){はりい};を呼べ、鍼医を」~ と云うと、丁度戸外&size(9){おもて};にピー、と按摩&size(9){あんま};の笛、~ ''新''「おゝ/\丁度按摩が通るようだ、素人&size(9){しろうと};療治ではいかんから彼&size(9){あ};れを呼べ/\」~ ''勘''「ヘエ」~ と按摩を呼入れて見ると、怪し気&size(9){げ};なる黒の羽織を着て、~ ''按摩''「宜&size(9){よろ};しゅう私&size(9){わたくし};が鍼をいたしましょう、鍼はお癪気&size(9){しゃくき};には宜しゅうございます」~ というので鍼を致しますと、~ ''奥方''「誠に好&size(9){よ};い心持に治まりがついたから何卒&size(9){どうぞ};明日&size(9){あす};の晩も来て呉れ」~ と戸外を通る揉療治ではありますが、一時凌&size(9){いっときしの};ぎに其の後&size(9){のち};五日ばかり続いて参ります。~ すると一番しまいの日に一本打ちました鍼が、何&size(9){ど};う云うことかひどく痛いことでございましたが、是は鍼に動ずると云うので、~ ''奥方''「あゝ痛&size(9){いた};、アいたタ」~ ''按摩''「大層お痛みでございますか」~ ''奥方''「はいあゝ甚&size(9){ひど};く痛い、今迄斯&size(9){こ};んなに痛いと思った事は無かったが、誠に此の鳩尾&size(9){みずおち};の所に打たれたのが立割られたようで」~ ''按摩''「ナニそれはお動じでございます、鍼が験&size(9){きゝ};ましたのでございますから御心配はございません、イエまア又明晩も参りましょうか」~ ''奥方''「はい、もう二三日鍼は止&size(9){や};めましょう、鍼はひどく痛いから」~ ''按摩''「直&size(9){じ};き癒&size(9){なお};ります、鍼が折れ込んだ訳でもないので、少しお動じですからナ、左様なら御機嫌よろしゅう」~ と僅&size(9){わずか};の療治代を貰って帰りました。すると奥方は鍼を致した鳩尾の所が段々痛み出し、遂には爛&size(9){ただ};れて鍼を打った口からジク/\と水が出るようで、猶更&size(9){なおさら};苦しみが増します。~ ~ 七~ ~ 新左衞門様は立腹して、~ ''新''「どうも怪&size(9){け};しからん鍼医だ、鍼を打ってその穴から水が出るなんという事は無い訳で、堀抜井戸&size(9){ほりぬきいど};じゃア有るまいし、痴呆&size(9){たわけ};た話だ、全体何&size(9){ど};う云うものかあれ限&size(9){ぎ};り来ませんナ」~ ''勘''「奥方がもう来ないで宜&size(9){よ};いと仰しゃいましたから」~ ''新''「間&size(9){ま};が悪いから来ないに違いない、不埓至極な奴だ、今夜でも見たら呼べ」~ と云われたから待って居りましたが、それぎり鍼医は参りません。~ すると十二月の二十日の夜&size(9){よ};に、ピイー/\、と戸外&size(9){おもて};を通ります。~ ''新''「アヽあれ/\笛が聞える、あれを呼べ、勘藏呼んで来い」~ ''勘''「ハイ」~ と駈出して按摩の手を取って連れて来て見ると、前の按摩とは違い、年をとって痩&size(9){やせ};こけた按摩。~ ''新''「何&size(9){なん};だこれじゃア有るまい、勘藏違って居&size(9){お};るぞ」~ ''按摩''「ヘエお療治を致しますか」~ ''新''「何だ汝&size(9){てまえ};ではなかった、違った」~ ''按摩''「左様で、それはお生憎&size(9){あいにく};様でございますが何卒&size(9){どうぞ};お療治を」~ ''新''「これ/\貴様鍼をいたすか」~ ''按摩''「私&size(9){わたくし};は俄盲人&size(9){にわかめくら};でございまして鍼は出来ません」~ ''新''「じゃア致方&size(9){いたしかた};が無い、按腹&size(9){あんぷく};は」~ ''按摩''「療治も馴れません事で中々上手に揉みます事は出来ませんが、丈夫な方ならば少しは揉めます」~ ''新''「何の事だ病人を揉む事はいかぬか、それは何にもならぬナ、でも呼んだものだから、勘藏、これ、何処&size(9){どこ};へ行って居るかナ、じゃア、まア折角呼んだものだからおれの肩を少し揉め」~ ''按摩''「ヘエ誠に馴れませんから、何処が悪いと仰しゃって下さい、経絡&size(9){けいらく};が分りませんから、こゝを揉めと仰しゃれば揉みます」~ と後&size(9){うしろ};へ廻って探り療治を致しまするうち、奥方が側に居て、~ ''奥方''「アヽ痛&size(9){いた};、アヽ痛」~ ''新''「そう何&size(9){ど};うもヒイ/\云っては困りますね、お前我慢が出来ませんか、武士の家に生れた者にも似合わぬ、痛い/\と云って我慢が出来ませんか、ウン/\然&size(9){そ};う悶えては却&size(9){かえ};って病に負けるから我慢して居なさい、アヽ痛、これ/\按摩待て、少し待て、アヽ痛い、成程此奴&size(9){こいつ};は何うもひどい下手だナ、汝&size(9){てまえ};は、エヽ骨の上などを揉む奴が有るものか、少しは考えて遣&size(9){や};れ、酷&size(9){ひど};く痛いワ、アヽ痛い堪&size(9){たま};らなく痛かった」~ ''按摩''「ヘエお痛みでござりますか、痛いと仰しゃるがまだ/\中々斯&size(9){こ};んな事ではございませんからナ」~ ''新''「何を、こんな事でないとは、是より痛くっては堪らん、筋骨に響く程痛かった」~ ''按摩''「どうして貴方、まだ手の先で揉むのでございますから、痛いと云ってもたかが知れておりますが、貴方のお脇差でこの左の肩から乳の処まで斯&size(9){こ};う斬下げられました時の苦しみはこんな事では有りませんからナ」~ ''新''「エ、ナニ」~ と振返って見ると、先年手打にした盲人&size(9){もうじん};宗悦が、骨と皮許&size(9){ばか};りに痩せた手を膝にして、恨めしそうに見えぬ眼を斑&size(9){まだら};に開いて、斯う乗出した時は、深見新左衞門は酒の酔&size(9){えい};も醒&size(9){さ};め、ゾッと総毛だって、怖い紛れに側にあった一刀をとって、~ ''新''「己&size(9){おの};れ参ったか」~ と力に任&size(9){まか};して斬りつけると、~ ''按摩''「アッ」~ と云うその声に驚きまして、門番の勘藏が駈出して来て見ると、宗悦と思いの外&size(9){ほか};奥方の肩先深く斬りつけましたから、奥方は七転八倒の苦しみ、~ ''新''「ア、彼&size(9){あ};の按摩は」~ と見るともう按摩の影はありません。 ~ ---- 底本:「圓朝全集 巻の一」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫~ 1963(昭和38)年6月10日発行~ 底本の親本:「圓朝全集巻の一」春陽堂~ 1925(大正15)年9月3日発行~ ※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。~ ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号は原則としてそのまま用いました。同の字点「々」と同様に用いられている二の字点(漢数字の「二」を一筆書きにしたような形の繰り返し記号)は、「々」にかえました。~ また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。~ 底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「彼(あ)の」と「彼(あの)」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。~ また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。~ ※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)~ 入力:小林 繁雄~ 校正:かとうかおり~ ファイル作成:かとうかおり~ 2000年4月18日公開~ 青空文庫作成ファイル:~ 一部抜粋~ ~