小説やその他の著作の中に登場する按摩さん。~ そんな文章を集めてみようと思います。~ 「[[青空文庫>]]」というオンライン電子図書館があり、作者の死後50年を経て著作権の消滅した作品と、著作権者が「タダで読んでもらってかまわない」と判断したものがおさめられています。~ この中で、作者の死後50年を経て著作権の消滅した作品=昭和初期以前の著作が収集する対象になるかと思います。~ ~ フィクションやノンフィクション、様々な風景の中に登場する按摩さん。~ ぼくたちの知らない、または忘れてしまった風景や空気。~ そんな中に、按摩という技術の根本があるのではないか、と思うのです。~ ~ ~ #contennts ~ ~ *[[「大島行」林芙美子>http://www.aozora.gr.jp/cards/000291/files/4647_15558.html]] [#kd2bf4a9] 底本:「現代日本紀行文学全集 東日本編」ほるぷ出版~ 1976(昭和51)年8月1日初版発行~ ※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。~ 入力:林 幸雄~ 校正:松永正敏~ 2004年5月1日作成~ 青空文庫作成ファイル:~ 一部抜粋~ ~ ''二信''~ ~ ……略……~ ~ 同じ宿に泊るのもつまらないので、勘定を濟ませて、舶着場で宿を探がしてみました。~ 「どこか風景のいゝ海の見える宿はないでせうか」~ 土産物を賣る家で、五錢の牛乳を飮みながら話すと、~ 「どうもおひとりでは、部屋がふさがつてもうけにもならないのでこゝでは厭がりますが、少しお出しになればいゝでせう」~ と云ふ事で、船着場近かくの海氣館と云ふのに泊る。~ ~ 三原館よりはましでせう。~ 一望にして海が見えました。~ 水が不自由なところなので、風呂も牛乳風呂とかで這入つて氣味が惡い。~ 夕食は湯豆腐が出て驚いてしまひました。~ これで參圓五拾錢です。~ 雨にたゝられたと云ふかたちです。~ ~ 樂しみがないので、按摩を呼んで貰つたのですが、これが八十歳とかになるお爺さんで、休みながら揉んでくれるのです。~ どうも應へないのですが、此爺さんの話はとても面白いので、途中何度か休んで煙草を吸つて貰らひながら揉んでもらひました。~ ~ 「私は二十八の時、荷物船に乘つて、靜岡から出たので厶(ござ)いますが、二日目に嵐でもつてあなた途中房州の布良汐(めらじを)と云ふところに流されて、三日目にやつと、大島の元村へ着いたので厶いますよ。當世ぢやァお客樣ばつかり乘せる船が出て便利になつたもので厶いますねえ」~ 「便利は便利だけど、元村と云ふところは少し荒(す)さんでますよ」~ 「えゝもう進んだもので厶いますよ、電氣もついてゐるので厶いますから」~ ~ で、私は苦笑しながら、子供のやうな此お爺さんの生活を訊いてみますと、息子が東京にゐるのですが、住所も判らず、晝は各村々の官主か何かに頼まれ、夜は按摩をするのだと云つてゐました。~ 「官主をしながら按摩をすると云へばをかしゆう厶いますが、これでも人樣に迷惑をかけず、自活をしてをるので厶いますからへえ、百姓も少しはやつてをりますが、官主をしてをりますので下肥(しもごえ)だけはいらはない事にしてをります。……淋しいもンで厶いますよ……」~ ~ 此按摩は繁太郎と云ふのださうです。~ 生れて始めて私は此樣に長命な按摩さんに肩を揉んで貰つたので長生きするだらうと思つてをります。~ ~ ~ *[[「真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)」三遊亭圓朝 鈴木行三校訂編纂>http://www.aozora.gr.jp/cards/000989/files/350.html]] [#ye4c5fdd] 底本:「圓朝全集 巻の一」近代文芸資料複刻叢書、世界文庫~ 1963(昭和38)年6月10日発行~ 底本の親本:「圓朝全集巻の一」春陽堂~ 1925(大正15)年9月3日発行~ ※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。~ ただし、話芸の速記を元にした底本の特徴を残すために、繰り返し記号は原則としてそのまま用いました。同の字点「々」と同様に用いられている二の字点(漢数字の「二」を一筆書きにしたような形の繰り返し記号)は、「々」にかえました。~ また、総ルビの底本から、振り仮名の一部を省きました。~ 底本中ではばらばらに用いられている、「其の」と「其」、「此の」と「此」、「彼(あ)の」と「彼(あの)」は、それぞれ「其の」「此の」「彼の」に統一しました。~ また、底本中では改行されていませんが、会話文の前後で段落をあらため、会話文の終わりを示す句読点は、受けのかぎ括弧にかえました。~ ※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)~ 入力:小林 繁雄~ 校正:かとうかおり~ ファイル作成:かとうかおり~ 2000年4月18日公開~ 青空文庫作成ファイル:~ 一部抜粋~ ~ ''新''「困っても仕方がない、何か、さしこみには近辺の鍼医(はりい)を呼べ、鍼医を」~ と云うと、丁度戸外(おもて)にピー、と按摩(あんま)の笛、~ ''新''「おゝ/\丁度按摩が通るようだ、素人(しろうと)療治ではいかんから彼(あ)れを呼べ/\」~ ''勘''「ヘエ」~ と按摩を呼入れて見ると、怪し気(げ)なる黒の羽織を着て、~ ''按摩''「宜(よろ)しゅう私(わたくし)が鍼をいたしましょう、鍼はお癪気(しゃくき)には宜しゅうございます」~ というので鍼を致しますと、~ ''奥方''「誠に好(よ)い心持に治まりがついたから何卒(どうぞ)明日(あす)の晩も来て呉れ」~ と戸外を通る揉療治ではありますが、一時凌(いっときしの)ぎに其の後(のち)五日ばかり続いて参ります。~ すると一番しまいの日に一本打ちました鍼が、何(ど)う云うことかひどく痛いことでございましたが、是は鍼に動ずると云うので、~ ''奥方''「あゝ痛(いた)、アいたタ」~ ''按摩''「大層お痛みでございますか」~ ''奥方''「はいあゝ甚(ひど)く痛い、今迄斯(こ)んなに痛いと思った事は無かったが、誠に此の鳩尾(みずおち)の所に打たれたのが立割られたようで」~ ''按摩''「ナニそれはお動じでございます、鍼が験(きゝ)ましたのでございますから御心配はございません、イエまア又明晩も参りましょうか」~ ''奥方''「はい、もう二三日鍼は止(や)めましょう、鍼はひどく痛いから」~ ''按摩''「直(じ)き癒(なお)ります、鍼が折れ込んだ訳でもないので、少しお動じですからナ、左様なら御機嫌よろしゅう」~ と僅(わずか)の療治代を貰って帰りました。すると奥方は鍼を致した鳩尾の所が段々痛み出し、遂には爛(ただ)れて鍼を打った口からジク/\と水が出るようで、猶更(なおさら)苦しみが増します。~ ~ 七~ ~ 新左衞門様は立腹して、~ ''新''「どうも怪(け)しからん鍼医だ、鍼を打ってその穴から水が出るなんという事は無い訳で、堀抜井戸(ほりぬきいど)じゃア有るまいし、痴呆(たわけ)た話だ、全体何(ど)う云うものかあれ限(ぎ)り来ませんナ」~ ''勘''「奥方がもう来ないで宜(よ)いと仰しゃいましたから」~ ''新''「間(ま)が悪いから来ないに違いない、不埓至極な奴だ、今夜でも見たら呼べ」~ と云われたから待って居りましたが、それぎり鍼医は参りません。~ すると十二月の二十日の夜(よ)に、ピイー/\、と戸外(おもて)を通ります。~ ''新''「アヽあれ/\笛が聞える、あれを呼べ、勘藏呼んで来い」~ ''勘''「ハイ」~ と駈出して按摩の手を取って連れて来て見ると、前の按摩とは違い、年をとって痩(やせ)こけた按摩。~ ''新''「何(なん)だこれじゃア有るまい、勘藏違って居(お)るぞ」~ ''按摩''「ヘエお療治を致しますか」~ ''新''「何だ汝(てまえ)ではなかった、違った」~ ''按摩''「左様で、それはお生憎(あいにく)様でございますが何卒(どうぞ)お療治を」~ ''新''「これ/\貴様鍼をいたすか」~ ''按摩''「私(わたくし)は俄盲人(にわかめくら)でございまして鍼は出来ません」~ ''新''「じゃア致方(いたしかた)が無い、按腹(あんぷく)は」~ ''按摩''「療治も馴れません事で中々上手に揉みます事は出来ませんが、丈夫な方ならば少しは揉めます」~ ''新''「何の事だ病人を揉む事はいかぬか、それは何にもならぬナ、でも呼んだものだから、勘藏、これ、何処(どこ)へ行って居るかナ、じゃア、まア折角呼んだものだからおれの肩を少し揉め」~ ''按摩''「ヘエ誠に馴れませんから、何処が悪いと仰しゃって下さい、経絡(けいらく)が分りませんから、こゝを揉めと仰しゃれば揉みます」~ と後(うしろ)へ廻って探り療治を致しまするうち、奥方が側に居て、~ ''奥方''「アヽ痛(いた)、アヽ痛」~ ''新''「そう何(ど)うもヒイ/\云っては困りますね、お前我慢が出来ませんか、武士の家に生れた者にも似合わぬ、痛い/\と云って我慢が出来ませんか、ウン/\然(そ)う悶えては却(かえ)って病に負けるから我慢して居なさい、アヽ痛、これ/\按摩待て、少し待て、アヽ痛い、成程此奴(こいつ)は何うもひどい下手だナ、汝(てまえ)は、エヽ骨の上などを揉む奴が有るものか、少しは考えて遣(や)れ、酷(ひど)く痛いワ、アヽ痛い堪(たま)らなく痛かった」~ ''按摩''「ヘエお痛みでござりますか、痛いと仰しゃるがまだ/\中々斯(こ)んな事ではございませんからナ」~ ''新''「何を、こんな事でないとは、是より痛くっては堪らん、筋骨に響く程痛かった」~ ''按摩''「どうして貴方、まだ手の先で揉むのでございますから、痛いと云ってもたかが知れておりますが、貴方のお脇差でこの左の肩から乳の処まで斯(こ)う斬下げられました時の苦しみはこんな事では有りませんからナ」~ ''新''「エ、ナニ」~ と振返って見ると、先年手打にした盲人(もうじん)宗悦が、骨と皮許(ばか)りに痩せた手を膝にして、恨めしそうに見えぬ眼を斑(まだら)に開いて、斯う乗出した時は、深見新左衞門は酒の酔(えい)も醒(さ)め、ゾッと総毛だって、怖い紛れに側にあった一刀をとって、~ ''新''「己(おの)れ参ったか」~ と力に任(まか)して斬りつけると、~ ''按摩''「アッ」~ と云うその声に驚きまして、門番の勘藏が駈出して来て見ると、宗悦と思いの外(ほか)奥方の肩先深く斬りつけましたから、奥方は七転八倒の苦しみ、~ ''新''「ア、彼(あ)の按摩は」~ と見るともう按摩の影はありません。