第91〜第92回帝国議会まとめ

誓願委員会「第38号、盲唖者の処遇改善に関する件」

  • 法差別の撤廃、盲人にも医療関係者を
    • 国民医療法(法律第八十号、昭和十七年二月二十四日発令)を同法第二條中に「鍼灸マツサージ師」を挿入し、第五條第二項中の「盲者」を削るよう改正すること。


  • 司法省の見解
    • 請願趣旨には同感であり、新憲法の精神に依り、法的に差別はされないし、又現行法の裁判所構成法、高等試驗令等の上からも法的には、何等の差別を設けない。
    • 但し実際問題として、例へば高等試驗の受驗は出来たとしても、其の後判事、検事、陪審員、或は弁護士任命後の公判の立会、記録の閲読、訴訟記録作成等、職責を尽くす上に盲唖者なるが故に困難が予想される。
    • 即ち差別撤廃は勿論だが、実施上には相當な困難が予想される爲、期待には沿いたい。


  • 委員よりの質問、希望意見
    • 即ち盲唖者の法律行爲には制限があるのか。
  • 司法省の見解
    • 民法では盲唖者は制限があり、無能力者となっているが、今後は撤廃される予定である。


  • 意見
    • 盲唖者に対し、自分だけが薄遇されるのではないこと、実際上仕事が出来ない種類のものがあり、それをすれば却て本人の爲にも迷惑となるやうな結果になることを能く納得させる必要があり、又出来るだけ慈悲を掛けて此の請願の趣旨に沿って欲しい。
  • 司法省の見解
    • 実際上の問題として、相共に文化国家の建設に努力の出来るやうに進むことにしたい。


  • 厚生省の見解
    • 国民医療法第五條第二項に、医師又は歯科医師の欠格條項として盲者を挙げているが、是は全然視力のない者は一般に医師又は歯科医として完全な医業の遂行が不可であり、之を請願の趣旨の如くに改正することは、相当考慮の要がある。
    • 医療関係者として、鍼灸とかマッサージ師を第二條に挿入する件
      • 按摩営業者も広義の医療関係者であることは勿論だが同法医療関係者に今直ちに鍼灸、按摩術業を加へることは、相当研究の余地がある。
    • 盲唖者に対する養老年金制度の実施について
      • 現在社会保険制度は労働者のみ対象として実施しているが、之を請願の如く盲者のみならず広く国民全般に及すことは、国家の財政の見地から見、又保険技術の面からも相当困難であり、早急の実施は不可能。
      • だが、將来是等の人々の爲に社会保険制度を適用したたく社会保険制度調査会にも諮問し研究したい。
      • 生活困窮者に対しては、現行の生活保護法の適用に依り救済出来るが、將来の問題として、保険の問題に付ては十分に考慮する。
        以上の件、会議に附すべきものとして採択するに決す。


労働者災害補償

  • 骨折の治療には接骨が有効であり、接骨技術者の扱いをどうのようにするか。
    • 接骨に関して、政府当局は今後いかに扱う計画であるか。
    • 接骨技術者を医師として認める考えはないか。


  • 厚生省の見解
    • 柔道接骨師の場合、從前から現在もある健康保険において、療養の給付として取入れている。
    • 労働者災害補償保険法においても、第十三條の中に処置、手術その他の治療という文字でそれを現わしている。
    • 現在、柔道接骨師を医師として認める考えは、厚生省としてはない。
    • 療術行爲などの非医師をどの範圍で療養機関と認めるかということについて、医制審議会という委員会をつくり研究している。



附録(本会議)理療医師法及び按摩師法制定に関する請願(第191号)

  • 請願の趣旨
    • 鍼灸・マツサージ按摩術は、法規上医療にも属せず、純然たる民間療法にも属しない中間的存在として、消極的に明治四十四年発令の営業取締規則の下にその発展を阻止されている。
    • これ等業者の素質向上と国民保健のため
      • 理療医師及び按摩師としてその身分を保証。
      • 学識、教養を高め、その治療的価値を発揮せしめ。
      • 現行の鍼術、灸術営業取締規則、按摩術営業取締規則及び療術行爲又は医業類似行爲取締規則を全廃。
      • 新たに理療医師法及び接摩師法を制定せられたい。




以下、各会議内容。

92-貴-請願委員第二分…-2号(回) 昭和22年03月19日

○主査(北小路三郎君)
議題「第三十八号、盲唖者の処遇改善に関する件」。

○侯爵嵯峨実勝君
盲唖者の處遇改善に関する件の請願であり、京都市、文部地方教官、島田俊平氏外四十八名から出された請願書。
趣旨:盲唖者が差別、冷遇されて居る現状は社会正義に反し、人道上看過し得ない文化国家建設の前途に暗影を投ずる重大問題である。
故に以下の誓願を審議し、盲唖者の待遇を改善するよう配慮願いたい。

……あはき関連以外は略……

法差別の撤廃に関して、盲人にも医療関係者たり得るよう国民医療法(法律第八十号、昭和十七年二月二十四日発令)を同法第二條中に「鍼灸マツサージ師」を挿入し、第五條第二項中の「盲者」を削るよう改正すること。

盲唖者の日常生活に於ける不便と不利は到底筆紙に盡し難い。
それにも拘わらず深刻な経済不安、暗澹たる世相と闘い、新日本文化建設の為に力を尽くさんと人格向上、識見長養に日夜努力する姿は眞に痛々しい。
だが世の人は彼等に対して極めて冷淡無関心だけではなく昔ながらの侮蔑感を投げつけ、差別的に扱っている。
盲人唯一の適職とも云ふべき鍼、按摩、マツサージ業にさえ目明きの人が喰入つて居るやうな有様で、盲人の経済生活に深刻な脅威、圧迫を加えている。
更に又法律上に於ても、種種の制限拘束を受けている。
誠に弱肉強食の地獄のやうな有様で、人道上誠に默視出来ない実状である。

……略……

議員各位の深い御理解と御配慮に依り、不遇な盲唖者が速かに各各其の所を得、正しく待遇せられ、保護せられ、等しく人間としての喜びを享受し、勇んで新日本建設に參加し得ることが出来ますやうに、此の忘れ去られ勝ちな社会問題に対して、拔本的な解決と施策を戴きたく、茲に懇願する次第であります。
以上が本誓願理由であります。

○政府委員(吉田安君)
司法関係のみ御答。
盲唖者の処遇改善に対する説明には同感である。
新憲法の精神からも、法的に差別をすることは許されない。
又現行法の裁判所構成法、高等試験令などの上から見ても、法的には何等の差別は設けていない。
実際上の問題として、高等試験の受験が出来たとし、其の後判事、検事、大審院或は弁護士任命後の公判の立会、記録の閲読、訴訟記録の作成等、其の職務を遂行することに当り、相当困難な事情も予想される。
差別撤廃は勿論だが、実際上の見地から実現は可なり困難だと政府としては思う。
しかしながら期待には応えたいと考えている。

○伯爵清閑寺良貞君
盲唖者の法律行爲に付て或程度制限されているか。

○政府委員(吉田安君)
民法上、盲唖者は制限されている。
無能力者となつていたが、今度撤廃される。

○侯爵嵯峨実勝君
司法当局の説明のように目が明いて居る者と同様には出来ないとしても、何らかの資格を得る等がよいかも知れない。
出来るだけ不遇な当人自身がよく理解し、本人のみが薄遇される訳ではなく、実際上仕事が出来ない種類のものがあり、却て本人の爲にも迷惑になる結果にもなる旨、能く知らせるのも宜い。
出来るだけ慈悲を懸け、此の請願の趣旨に沿っていくことを願う。

○政府委員(吉田安君)
実際上はさまざまな問題が予想されるので、十分な注意を払い、勢ひ立つて日本再建、文化国家の建設に努力出来るよう相共に進むと云ふことに努力したい。

○長島銀藏君
盲唖者について、按摩を業とする者の家庭を覗いて見たことがあるが、彼等がお客さんを取って治療をする。
其の間に非常な過大な労力を絶えず長時間費しており、缺配など食糧事情の悪い現在、一般人もなかなか容易に滿足する程の食糧は得られない現状。
労働の種類に依ると、運搬從事業者は重労働者並みの配給が保護され、炭坑労働者にも重労働者用の配給がある。
按摩を業とする盲の方にはそういった特典がない。
目明きと同様に走り廻り、闇物資でも買つて来るという自由も無論持てず、非常に氣の毒な状態にあることを度々見る。
盲者で按摩を業とするものは、食糧消費が多いやうな方には、特に政府から加配米などの方法を執り、日常生活に不便がないやうに取計ひ願えないか。
これに対し、関係政府委員が出席していたら意見を承りたい。

○説明員(堀岡吉次君)
国民医療法第五條第二項に、医師又は歯科医師の欠格條項としても、盲者を挙げている。
全然視力のない者は、一般に医師又は歯科医として完全な医業の遂行が出来ないからである。
これを趣旨の如く改正することに付いては、相当考慮の要があると当局としては考へている。
次に医療関係者として鍼灸、マツサーヂ師を第二條に挿入する件に付いて、按摩術営業者も広義の医療関係者であることは、勿論だが、同法第二條の医療関係者に、今直ちに鍼灸、按摩術業者を加へるかについては相当研究の要があると考える。
暫く研究さして戴きたい、
盲唖者に対する養老年金制度実施だが、現在、社会保険制度は労働者のみを対象として実施しているが、之を盲者のみならず、広く国民全般に及すことは、国家財政の見地から又保険技術の面からも相当困難であるので、早急の実施は不可能であるが、將来是等の人々の爲に社会保険制度を適用するよう社会保健制度調査会にも諮問し研究致したい。
生活困窮者に対しては、現行の生活保護法の適用に依り救済出来るが、將来の問題として、保健の問題に付いて、十分考究致したい。

○坂口康藏君
請願の中に鍼灸のみならず医者もさせろと云ふやうなこともあったと思うが、是は無理かと思ふが、厚生省の政府委員の方如何か。

○説明員(堀岡吉次君)
盲唖者は、医療法の第五條第二項に於て医者になれないと云ふ缺格條件が現在ある。
其の欠格條件の撤廃が請願の趣旨であるが、一般の医業又は歯科医業の完全なる遂行に付ては、相当無理があり、趣旨の如く改正することに付て、相当考慮の要があると当局では考へている。
十分研究はしている。



92-衆-労働者災害補償-2号(回) 昭和22年03月22日~

○滝澤(脩)委員
労働者が国家再建のため志し、職務熱心のために危険を冒した結果とり返えしのつかない怪我をした。
それはしかも骨折であるとした時、医師による治療はもちろんであるが、骨折医という柔道の極意を修めておる先生にかかるとこれが至つて早く治る。
この接骨に対し、政府当局は今後いかように扱う計画であるか返答願いたい。

○友納政府委員
柔道接骨師の場合、從前から現在もある健康保険において、療養の給付として取入れている。
この労働者災害補償保険法においても、第十三條の中に処置、手術その他の治療という文字でそれを現わしている。

○滝澤(脩)委員
この接骨技術者を医師として認める考えはないか。

○友納政府委員
現在、柔道接骨師を医師として認める考えは、厚生省としてはない。
ただ、他のいろいろな療術行爲などの非医師をどの範圍で療養機関と認めるかということについて、医制審議会という委員会をつくり研究している。

○滝澤(脩)委員
研究を重ねることは結構であるが、その研究の結果を早く実現していただきたい。
これは繰返して申し上げるが、全治が早いのである。
しかも接骨師は、国で定められている医師検定等の資格が得られず、一層自分達は勉強を重ねなくてはならないとし非常に研究を重ねている。
相当な専門の医師としての学校を卒業した以上の実力を具えておる人がある。
こういつた人に対し、政府では試験により医師として認める考え、あるいは誠実があるか尋ねたい。

○友納政府委員
返答可能な範囲では、国民医療法改正に関する事項として、研究中であるとしかいえない。
意見の点は該当委員会に伝え善処する。

○滝澤(脩)委員
該当委員会が十分なる結果を現すよう努めることを願う。
以上質問を終わる。



92-貴-請願委員会-3号(回) 昭和22年03月22日


○委員長(子爵入江爲常君)
「第38号、盲唖者の処遇改善に関する件」

○子爵北小路三郎君
請願の要旨は、盲唖者が人間と生れながらも差別、制限冷遇を受け、日常生活に甚だしい不便を余儀なくされて居るのは人道上看過し難いばかりでなく、文化国家建設の前途に暗影を投ずるものである。
政府は請願書に記載する各項目に付て処遇改善を講じて貰ひたい。

……あはき関連以外は略……

法差別の撤廃に関して、盲人にも医療関係者たり得るよう国民医療法(法律第八十号、昭和十七年二月二十四日発令)を同法第二條中に「鍼灸マツサージ師」を挿入し、第五條第二項中の「盲者」を削るよう改正すること。

……略……

司法省の見解は、請願趣旨には同感であり、新憲法の精神に依り、法的に差別はされないし、又現行法の裁判所構成法、高等試驗令等の上からも法的には、何等の差別を設けない。
但し実際問題として、例へば高等試驗の受驗は出来たとしても、其の後判事、検事、陪審員、或は弁護士任命後の公判の立会、記録の閲読、訴訟記録作成等、職責を尽くす上に盲唖者なるが故に困難が予想される。
即ち差別撤廃は勿論だが、実施上には相當な困難が予想される爲、期待には沿いたい。
また、この問題には委員より質問、希望意見も出た。
即ち盲唖者の法律行爲には制限があるのか。
民法では盲唖者は制限があり、無能力者となつて居るのであるが、今後は撤廃される筈であるとの答。
意見として盲唖者をして、自分等たけが薄遇されるのではないのだと実際上仕事が出来ない種類のものがあるのであるから、それをすれば却て本人の爲にも迷惑となるやうな結果になるのだからと云ふことを能く納得させる必要があり、又出来るだけ慈悲を掛けて此の請願の趣旨に沿って欲しいと云ふ意見があった。
之に対し実際上の問題と致しまして、相共に文化国家の建設に努力の出来るやうに進むことにしたいとの御答があつた。

次の厚生省に見解だが、国民医療法第五條第二項に、医師又は歯科医師の欠格條項として盲者を挙げているが、是は全然視力のない者は一般に医師又は歯科医として完全な医業の遂行が不可であるから。
之を請願の趣旨の如くに改正することは、相当考慮の要があるという。

次に医療関係者として、鍼灸とかマッサージ師を第二條に挿入する件に付いては、按摩営業者も広義の医療関係者であることは勿論だが同法医療関係者に今直ちに鍼灸、按摩術業を加へることは、相当研究の余地があるという。
尚盲唖者に対する養老年金制度の実施だが、現在社会保険制度は労働者のみ対象として実施しているが、之を請願の如く盲者のみならず広く国民全般に及すことは、国家の財政の見地から見、又保険技術の面からも相当困難であり、早急の実施は不可能だが、將来是等の人々の爲に社会保険制度を適用したたく社会保険制度調査会にも諮問し研究したい考である。
尚生活困窮者に対しては、現行の生活保護法の適用に依り救済出来るが、將来の問題として、保険の問題に付ては十分に考慮するという。

……略……

分科会としては、審議の結果、会議に附すべきものとして採択するに決した。

○委員長(子爵入江爲常君)

本件は採択に決す。



92-衆-請願委員会-4号(回) 昭和22年03月24日

○小川原委員長
厚生省所管、日程第11、理療医師法及び按摩師法制定に関する請願、文書表第191号、紹介議員田中伊三次君。

○小川原委員
本請願の趣旨:鍼灸・マツサージ、按摩術が国民の保健、疾病の予防並びに治療に対し、無薬療法として貢献しつつある。
だがこれらの治療的技術は、法規上医療にも属せず、純然たる民間療法にも属しない中間的存在として、消極的に明治四十四年発令の営業取締規則のもとにその発展を阻止されている。
ついては、これら業者の素質向上と国民保健のため、理療医師及び按摩師としてその身分を保証し学識、教養を高め、その治療的価値を発揮せしめるとともに、ますます国民保健に寄与せしめるため、現行の鍼術、灸術營業取締規則、按摩術營業取締規則及び療術行爲または医業類似行爲取締規則を全廃して、新たに理療医師法及び按摩師法を制定したいという。
政府当局の所見を承りたい。

○宮崎政府委員
政府においても多年にわたる問題でなので、いろいろ研究を続けている。
近く諸般の法律の改正等を余儀なくされているので、医薬制度審議会等を通じこの問題について十分考慮したい。

○大塚委員長
採択に決す。


92-衆- 附録(本会議) - 32 号(回) 昭和22年03月31日

  • 特別報告第一二〇號
  • 理療医師法及び按摩師法制定に関する請願(第一九一号)
  • 請願者大阪府立盲学校長近畿盲教育会長西出末造
  • 紹介議員田中伊三次君

    本請願の趣旨は、鍼灸・マツサージ按摩術が国民の保健、疾病の予防並びに治療に対して、いわゆる無薬療法として貢献しつつあることは、世のひとしく確認する所である。
    然るにこれ等の治療的技術は、法規上医療にも属せず、純然たる民間療法にも属しない中間的存在として、消極的に明治四十四年発令の営業取締規則の下にその発展を阻止されている。
    ついては、これ等業者の素質向上と国民保健のため、理療医師及び按摩師としてその身分を保証し、学識、教養を高め、その治療的価値を発揮せしめると共に、益益国民保健に寄与せしめるため、現行の鍼術、灸術営業取締規則、按摩術営業取締規則及び療術行爲又は医業類似行爲取締規則を全廃して、新たに理療医師法及び接摩師法を制定せられたいというのである。


     
     
     

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