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92-貴-請願委員会-3号(回) 昭和22年03月22日

No.037〜040


○委員長(子爵入江爲常君)
御異議ないと認めます、
本件は採擇に決しました、
「第三十八號、盲唖者ノ處遇改善ニ關スル件」、第二分科主査の御報告を願ひます


○子爵北小路三郎君
「第三十八號、盲唖者ノ處遇改善ニ關スル件」であります、
此の請願は其の内容から考へまして、司法省、厚生省、文部省、其の他に關する請願であります、
其の請願の要旨でありまするが、盲唖者が齊しく人間と生れながらも差別をせられて、或は制限冷遇を受け、日常生活に甚だしい不便を餘儀なくされて居るのは人道上看過し難いばかりでなく、文化國家建設の前途に暗影を投ずるものであるから、政府は請願書に記載する各項目に付て處遇改善の方途を講じて貰ひたいとの請願であります、

それに對しまして、

  • 第一と致しまして、法的差別の撤廢を先づ叫ぶものであります、
    • 其のaと致しまして、盲人にも裁判所の判事、檢事、陪審員及び辯護士になり得るやうな前途を拓いて貰ひたいと云ふことであります、
    • 其のbと致しましては、盲人にも醫療關係者たり得るやうに國民醫療法、それは法律第八十號、昭和十七年二月二十四日發令のものでありますが、それを改正することであります、
      即ち同法第二條中に「鍼灸マツサージ師」を挿入して、第五條第二項中の「盲者」を削ると云ふのであります、
  • 其の二と致しましては、社會生活及び文化生活に於きまして、特に盲人保護の施設を積極的に充實して貰ひたいと云ふのであります、
    • 其のaと致しましては、家族制度の廢止に伴ひまして、盲唖者の老後と云ふものは經濟上の不安に脅される虞があり、仍て盲唖者養老年金制度を確立致しまして、法律に依つて盲唖者の老後の生活を保證して貰ひたいと云ふのであります、
    • 其のbと致しましては、現下の世相は混亂雜沓を極めて居り、盲人の一人歩きと云ふものは絶對に不可能である、それには附添人を必要とするものである、然るに盲人は生活が不如意であつて、二人分の料金の負擔には堪へない、仍て交通機關の利用及び有料文化施設の利用の際には、附添人の乘車、乘船賃金竝に入場科を全免することを言つて居るのであります、
    • 其のcと致しましては、國立點字出版所を設立して優良圖書文獻の多種多量の出版をなし、盲人の文化向上を圖つて欲しいと云ふのであります、
    • 其のaと致しましては、全國の圖書館に盲人部を設けまして、點字圖書文獻の參考資料を整備することを圖書館法文中に追加して貰ひたいと云ふのであります、
  • 其の第三には、學制改革に付て言つて居るのでありまするが、
    • 其のaと致しましては、盲人の義務就學制と云ふものを二十二年の四月から普通教育義務制實施と同時に實施施行することを言つて居ります、此の際特に小學部と中學部と同時に實現して貰ひたいと云ふのであります、
    • 其のbと致しましては、盲人に高等教育を受ける機會を普通人と均等に與へる爲に、高等諸學校、大學の門戸を開放させ、又其の受入態勢の實質的の具現化を圖るやうに文部省から命令を出して貫ひたいと云ふのであります、
    • 其のcと致しましては、盲人にして盲學校教員に、聾者にして聾學校教員にならうと云ふ者に對しては、其の希望する學科に付きまして教員檢定試驗を受けさせ、資格を取り得るやうにして貰ひたいと云ふのであります、
    • 其のdと致しましては、國立盲人大學を地方ブロツク毎に設立致しまして、盲學校系統の體制整備と、地方盲人に大學教育を受ける機會均等を圖ることを言つて居ります、
      經費の關係上、各地に設立不可能の場合には、盲唖教育發祥の地であつて、非戰災學都である京都に盲人大學を置いて欲しい、設立して貰ひたいと云ふのであります、


先づ之に對しまして、司法省の見解でありまするが、請願の趣旨には同感であり、新憲法の精神に依りまして、法的に差別はされないし、又現行法の裁判所構成法、高等試驗令等の上からも法的には、何等の差別を設けないものである、
但し實際問題としての觀點から、例へば高等試驗の受驗は出來たとしても、其の後判事、檢事、陪審員、或は辯護士と云つたものの任命後の公判の立會であるとか、記録の閲讀、訴訟記録の作成等に付ては、職責を盡す上に盲唖者なるが故に困難な事情も豫想されるのである、
即ち差別撤廢は勿論であるけれども、實施の上には相當な困難が豫想されるのである爲に之をどうすると云ふ譯ではないが、精々御期待に副ひたいと云ふのであります、
尚此の問題には委員より質問又は希望意見も出たのであります、
即ち盲唖者の法律行爲には一體制限があるのかどうか、
此の間に對しましては、民法では盲唖者は制限があり、無能力者となつて居るのであるが、今後は撤廢される筈であるとの御答であります、
尚意見と致しまして盲唖者をして、自分等たけが薄遇されるのではないのだと實際上仕事が出來ない種類のものがあるのであるから、それをすれば却て本人の爲にも迷惑となるやうな結果になるのだからと云ふことを能く納得させる必要がある、
又出來るだけ慈悲を掛けて此の請願の趣旨に副ふて欲しいと云ふ意見がありました、
之に對しまして、實際上の問題と致しまして、其の時になつて僻んだりすることのないやうに、相共に文化國家の建設に努力の出來るやうに進むことにしたいものであるとの御答があつたのであります、

次の厚生省に見解でありまするが、國民醫療法第五條第二項に、醫師又は齒科醫師の缺格條項、即ち資格を缺く條項でありまするが、缺格條項と致しまして盲者を擧げて居るのでありまするが、是は全然視力のない者は一般に醫師又は齒科醫として完全な醫業の遂行が不可であるからであります、
之を請願の趣旨の如くに改正すると云ふことは、相當考慮の要があるのではないかと云ふのであります、

次に醫療關係者と致しまして、鍼灸とかマッサージ師を第二條に挿入する件に付きましては、按摩 營業者も廣義の醫療關係者であることは勿論であるけれども同法醫療關係者に今直ちにさう云ふ鍼灸とか按摩術業を加へるかどうかと云ふことは、相當研究の餘地があるのではないかと云ふのであります、
尚盲唖者に對しまして養老年金制度を實施してはどうかと云ふことでありまするが、現在社會保險制度は勞働者のみを對象として實施して居るのであるが、之を請願の如く盲者のみならず廣く國民全般に及すことは、國家の財政の見地から見まして、又保險技術の面からも相當困難なのであつて、早急に此の實施と云ふことは、端的に申して不可能と思ふが、將來是等の人々の爲に社會保險制度を適用したいと考へるから社會保險制度調査會にも諮問して折角研究したい考である、
尚生活困窮者に對しましては、現行の生活保護法の適用に依りまして救濟出來ることには一應なつて居るけれども、將來の問題として、保險の問題に付ては十分に考慮すると云ふのであります、
次に文部省の見解でありまするが、盲唖者に就學の義務制を實施せよと云ふことに付きましては、議會に提出中の學校教育法に規定しまして、此の教育を一層擴充せむとするものである、
但し義務制施行の時期に付ては、財政其の他の事情から、昭和二十三年度から初等部に入學する者に付て義務制を實施致しまして、逐年進んで行かせるやうに考へて居ると云ふのであります、

又學校教育法に於きましては、盲唖者に高等教育を受けさせるやう規定する、
即ち盲學校、聾唖學校に高等部を置くやうになつて居る、
又盲聾唖者の教育者になる途は拓かれて居るのであるが、今後共十分に考慮して趣旨に副ひたいものである、
其の他盲人大學設置に關すること、或は高等諸學校、大學への門戸開放に關すること其の他に付きましては、御趣旨に成るべく副ふやうに善處する積りである、
斯う云ふのであります、

分科會と致しましては、以上三省の意のある所を諒と致しまして、殊に司法省、厚生省の見解に對しましては、其の意の存する所を考慮致し、其の施策の善處を期待致しまして、審議の結果、會議に附すべきものとして採擇するに決した次第であります


○委員長(子爵入江爲常君)
本件は只今の主査の御報告通り採擇と云ふことで御異議ございませぬか
  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕


○委員長(子爵入江爲常君)
御異議ないと認めます、
本件は採擇に決します、


 
 
 

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